年収は住む地域によって決まるか
『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』という本を読みました。
地域がもたらす雰囲気とか、地域ごとの違いに注目するのが昔から好きでした。
街をどうデザインしていけば、創造性が高まるのか、活性化するのか、など。
その知的欲求に答えてくれそうなのが、この本だったんです。
年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学
- 作者: エンリコ・モレッティ,安田洋祐(解説),池村千秋
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2014/04/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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米国における、地域と年収の関係について論じた一冊です。
よって、日本のことについては触れられていませんが、日本の街に活かせる部分もあるのではないかと思います。(自分の居住地域選びにも参考にしたい...)
二回に分けて、同著で興味もった部分を記していこうかと思います。
1.年収の高い都市とはどこか
アメリカでは、大卒者の割合が多い都市ほど、大卒者も高卒者も年収が高いです。大卒者高割合都市(ex.ワシントンDC,ボストン)の高卒者平均年収は、大卒者低割合都市(ex.フリント,ストックトン)の大卒者平均年収よりも高かったりします。
これは、以下の三つの理由に基づきます。
一つ目は、高技能労働者と低技能労働者の相互補完性。高技能労働者が増えれば、低技能労働者の生産性も向上するということです。
二つ目は、高技能労働者の存在による、企業の高テクノロジー導入促進効果です。高い技術をもつ労働者は、高度な技術をもつシステムを使いこなせますし、導入に対する抵抗も低いです。
三つ目は人的資本の外部性。公式非公式の盛んな人的交流は、知識の伝播を生み、生産性・創造性を向上させます。
とはいえ、人的資本の外部性により恩恵を受けるのは教育水準の低い人です。これは、教育水準の高い人は、自己の受けた教育の生み出す社会的恩恵を受けてないことを意味します。経済学でいう「市場の失敗」です。
これは、大学教育を受ける動機が低下することに繋がりかねず、これを防ぐために大学教育に公的助成を行うことは正当化されます。
この問題における市場の失敗とは、公共財におけるものです。便益の享受者たる低教育水準者を供給者たる高教育水準者が排除できないとき、フリーライダー問題が発生します。この時、お互いに他人任せの状況が発生し、大学教育を受けるインセンティブが無くなり、大卒者の供給が減少しかねない、ということです。
大卒者が多い都市は創造性・生産性に優れることは先に述べた通りです。このような都市が、シリコンバレーに代表されるような"イノベーションハブ"になりうると言えます。
では、大卒者が多い地域はどこか。その地域の年収は実際に高いのか。
この点については、以下のサイトが詳しく分析を加えている。
https://dot.asahi.com/dol/2016011800044.html?page=3
⒉イノベーションハブのビジネスにおける特徴
では、"イノベーションハブ"のビジネスにおける特徴は何でしょうか。
最も大きいのは、⑴イノベーションに集中できる環境⑵イノベーションが起きやすい環境という二つの特徴に基づくエコシステムがあることでしょう。
⑴シリコンバレーでは、広告、法務、技術・経営コンサル、配送、修理、エンジニアリング支援といった専門サービス提供者が多いです。これによりハイテク企業は副次的な業務に煩わされず、イノベーションに集中できます。
ここで、シリコンバレーにある面白い法律事務所を紹介します。この事務所では、企業の法人化等にかかる手数料の代わりに、新会社の株式を受け取ります。何百何千社と担当したうち、一社でもgoogleやamazonレベルの企業になれば大儲けできるという算段です。
こんなビジネスモデル、ハイテク企業が密集する都市でしか成立しえません。
確かに、手数料でなくても、経済的価値を生むものであれば、サービスの対価になりうるという視点は今後重要なように思います。
数字に表しづらい物の価値を見極められるようにしたいところです。
⑵イノベーションが起きやすい環境
イノベーションが起きやすい環境とはどういった環境でしょうか。これは、その地域において、技術・アイデア・行動力に優れ、情熱ある人や企業の集積があるかどうかだと言えます。
先ほどの知識の伝播ではありませんが、あらゆる発想をもった人々がすぐに交流できる環境は、創造性・生産性を向上させます。こうした状態が、イノベーションハブには必須なのです。
長くなってきたので、続きは次回に回します。
暖房の音